<whitsun cake ウィットサンケーキ>
イースターから数えて50日目の日曜日、Whitsun(聖霊降臨祭)と呼ばれるキリスト教教義上大切な日があります。「ペンテコステ」とも言いますが、こちらなら聞いたことがあるわという方も多いでしょう。ギリシャ語で50番目という言葉に由来するこの日は復活から40日後のイエスキリストの昇天のさらに10日後に聖霊が弟子たちのもとに現れたことを記念する日です。クリスマスやイースターと比べて、イギリスではこの日を特別に祝う家庭も少なくなってしまい、それにともないこの日に食べられてきたお菓子の中には忘れられつつあるものも少なくありません。
このおかし百科の中でもいくつかご紹介してきましたが、例えばヨークシャー地方のヨークシャーカードタルト、コーンウォール地方のサフランケーキなど、これらはもともとWhitsunに食べるお祝いのお菓子でした。今日はまた新たにいくつかWhitsunのお菓子をご紹介しましょう。イギリス南西部ウイルトシャーのお菓子でその名も「Wiltshire whitsun cake」。毎年5月半ばから6月初旬にかけてやってくるwhitsun。 その頃ウイルトシャーではエルダーフラワーが咲き、グーズベリーが実り始めます。酸っぱいグリーンのグーズベリーと爽やかな香りのエルダーの花を入れたケーキは自然の香りいっぱいのイギリスの初夏の味です。
お次はリンカーンシャーの「Lincolnshire Whitsun cake」。こちらはまたまったく別の姿。ラードとバターを入れたリッチなパン生地を3つに分けて伸ばし、たっぷりのドライフルーツをサンドするように重ねて焼き上げたもの。そしてランカシャーのウィットサンケーキは「Goosnargh cake」と呼ばれるもの。こちらはキャラウェイシードをたっぷり入れたショートブレッドのようなタイプ。ランカシャーにある小さな村Goosnargh 生まれと言われています。トラディッショナルなお菓子によく使われるキャラウェイですが、今の私たちにはかえってその爽やかな香りがとても新鮮に感じられます。忘れられつつあるイギリス伝統の味、どんな味かちょっと気になりませんか?
さぁ、Roll up your sleeves and let’s baking !
Goosnargh cake
- 180gの薄力粉と60gのグラニュー糖をボールにふるい入れます。 そこに小さくカットした冷たい無塩バター90gを加えたら全体がさらさらのパン粉状になるまでバターを指先でつぶしていきます。
- キャラウェイシード小さじ2を加え、生地を軽く練ってまとめます。
- めん棒で5mm厚さに延ばして直径6cm位の丸型で抜いたら、160℃位のオーブンで15~20分ほど焼き上げ、熱いうちにグラニュー糖をふりかけてそのまま冷ましましょう。Whitsunのお菓子です、きつね色ではなく色白に焼き上げてくださいね。
そもそもWhitsunという言葉はWhite Sunday (白い日曜日)が短くなったもの。聖霊降臨祭の日は洗礼を受けるにふさわしい日として、洗礼を受ける者たちは白い衣服をまとい、教会へ赴いたことに由来するといわれています。クリスマスのフルーツケーキやイースターのシムネルケーキのように今はひとつのスタイルに統一されているように見えるお祝いの菓子も、はじめはこのウィットサンケーキのように地方地方によって様々なスタイルのものが存在していたのでしょう。それにしても伝統的な行事が衰退するのと共にそのお祝いのために焼かれていたお菓子も一緒に消えていってしまうのは寂しいことです。もしキャラウェイシード入りの「Goosnargh cake」がお気に召したら、次は誰かにレシピを添えてプレゼントしてみてはいかがでしょう。遠く離れた日本でランカシャーの昔ながらのお菓子が生き残っていくかもしれません。