第10話 Eccles cake ~エクルズケーキ~

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okashi


<Eccles cake エクルズケーキ>

「エクルズケーキ」またまた聞きなれない名前ですが、これもイギリスではおなじみのお菓子。ケーキと名はついていますが、カランツなどのドライフルーツたっぷりのフィリングをフレーキーなパイ生地で包んだ最中くらいのサイズの焼き菓子です。

スパイスの効いたドライフルーツがたっぷり☆

スパイスの効いたドライフルーツがたっぷり☆

「エクルズ」という名はマンチェスターからそう遠くないEcclesという町にちなんでおり、1793年にエクルズの町のVicarage RoadとSt.Mary’s Road(現在はChurch St.)の角に建つ店で James Birch が売り出したのが最初といわれています。
ちなみにこのEccles という言葉自体はラテン語のEcclesia(教会)からきているとのこと。エクルズには1111年創立の歴史あるSt. Mary 教会があるので、それに由来しているのだろうといわれています。毎年、教会の創立を祝う礼拝の後には、沢山の食べ物や飲み物がふるまわれ、その中でも「エクルズケーキ」は大人気だったそうです。後にそれが毎年8月25日以降の最初の日曜日から3日間行われる‘Eccles Wakes’というお祭りになっていきます。オリバークロムウエルが勢力をもつ1650年には、ホットクロスバンズやミンスパイ同様 このEccles Wakes とエクルズケーキを食べること自体が禁じられてしまうという時代もありましたが、その後もエクルズケーキは消えずに今なお紅茶のお供として愛され続けています。ただ、このお祭りのほうは19世ごろになると宗教色が薄れ、次第に野蛮なレースや競技などが多く行われるようになったため、1877年に禁止されてしまいましたが。

サクサクのフレーキーペストリーは焼きたてが格別☆

サクサクのフレーキーペストリーは焼きたてが格別☆

さて、そんな歴史はさておき、エクルズケーキの構造をもう少し見てみましょうか。外側はフレーキーペストリーと呼ばれるバター分の多いさくさくした軽い生地。フィリングは大量のカランツ(小型の干しぶどう)とオンジとレモンのピールの砂糖漬け、それらにお砂糖とバター・スパイス類を混ぜ合わせたもの。これを先ほどのペストリーで包んで平らに形を整えて、上にお砂糖をふりかけて焼いてあります。
前述の James Birchが最初に売り出した人物ではありますが、誰がこのレシピを作り出したかは不明。一説によると、1769にCheshireに住む Mrs. Elizabeth Raffaldがその料理本 ‘ The Experienced English Housekeeping ’ に載せている ‘ Sweet patties ’ がその原型とか、、(でもクロムウエルの頃にもう存在していたと言うならもっと前からあるわけですよね?)。まぁこれに限らず名前は違えど似たようなお菓子はいくつも存在しているわけで、最初にエクルズケーキを売り出した人がはっきりしているのなら、ひとまずそれ以上は追求してもキリがないのかも。

バンブリーの街で見つけたバンブリーケーキ

バンブリーの街で見つけたバンブリーケーキ

イギリスに存在する他の似たようなお菓子としてよく挙げられるのが、まずは「Banbury cake(バンブリーケーキ)」こちらはほとんど似たようなペストリーとフィリングですが、ローズウォーターで香り付けされており、形は細長いオーバル型。やはりOsfordshireのBanburyという町の銘菓。その歴史は1586年頃までさかのぼれるそう。さすがにオリジナルのお店は残っていませんが今でもマーケットなどを覗くと見つけることができます。似たお菓子をもう1つ挙げるとすると「Chorley cake(チョーリーケーキ)」。こちらはLancashire にあるChorleyという町出身のお菓子。形はエクルズケーキをめん棒でのばして薄くひとまわり大きくした感じ。大きな違いはペストリー。こちらはショートクラストペストリーと呼ばれるフレーキーペストリーよりバター分の少ない生地になり、フィリングにピール類は入りません。そして表面にお砂糖もふりかけず、全体にシンプル。そこで上にバターを塗ったり、ランカシャーチーズを添えて供されることもあるとか。構成はそっくりさんですけれどね。

チョーリーケーキもスーパーで探してみよう☆

チョーリーケーキもスーパーで探してみよう☆

見た目といえば、これらのお菓子のニックネームがとにかくひどい!「Squashed fly cake (つぶれたハエケーキ)」とか、「fly’s graveyard(ハエのお墓)」なんていうのですからお菓子につけるあだ名じゃないですよね、まったく。そんなひどい呼ばれ方をされながらも何百年と愛され続けているこれらのお菓子たち。その生まれ故郷の町に行くのは大変でも、エクルズケーキならロンドンのスーパーでも簡単に見つけることができるでしょう。お奨めは今でもエクルズの町そばでエクルズケーキを専門に作り続けている、その名もLancashire Eccles Cake 社のもの。ここの黄色と茶色のパッケージを見つけたら是非手にとってみてください。見た目より軽いテクスチャーで、紅茶がすすむ事請け合いです☆

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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2件のコメント

  1. ユカさん☆
    パイ饅頭~言われてみればそんな感じですね(笑)日本茶と頂いたことがなかったけど、合いそう~
    ティールームやベーカリーで売られているものは、大抵パイがサクサよりパイっぽく、サイズも大きいので、お饅頭というより、あんまんぽいかも。
    見つけたら是非トライしてください~☆

  2. はじめてこのお菓子を食べた時「パイ饅頭」みたいでハマりました。

    よく味わってみると酸味のあるドライフルーツの味がしてくるのですが、不思議と
    日本茶と一緒に頂くとパイ饅頭・・

    スーパーで売られるものではなく本格的なエクルズを食べてみたいものです。

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