第133話 Norfolk treacle tart ~ノーフォークトリークルタルト~

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okashi


<Norfolk treacle tart ノーフォークトリークルタルト >

ここ数回「Nelson square(ネルソンスクエア)」に「Norfolk vinegar cake(ノーフォークヴィネガーケーキ)」とノーフォーク出身のケーキの話題が続きましたが、他にも忘れたくないノーフォーク名物のお菓子がいくつかあります。まずは「Norfolk treacle tart(ノーフォークトリークルタルト)」。 トリークルタルトといえば、イギリス菓子好きならご存知の方も多いであろう、あのゴールデンシロップたっぷりの甘~いタルト。もちろん大半のイギリス人もあのパン粉がゴールデンシロップでひたひたになったタルトを頭に浮かべるのですが、ノーフォークの人たちだけは例外、もっと別のタルトの姿を思い描く人もいるはず。
norfolk treacle tart1

それはどんなものかというと~「トリークルタルト」と名がつくのですから、もちろんゴールデンシロップは入るのですが、なんと肝心要のパン粉がこのノーフォークトリークルタルトには入っていないのです。固形物が入らない分ある意味軽めに仕上がったタルト。現地ではこのタルト、「Treacle custard (トリークルカスタード)」と呼ばれることもあるように、まさにカスタードタルトとトリークルタルトの中間のような存在です。材料も、たっぷりのゴールデンシロップと卵と生クリーム、バターに風味付けのレモンと、両方のタルトのフィリングを混ぜて、パン粉だけ除いたようなもの。ただし、生クリームの量はほんの少しなので、カスタードタルトとは違う、気持ち透け感ある、ぷるんとした食感のフィリングに焼きあがります。

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このノーフォークトリークルタルト、いつ頃から作られているのかはあまり定かではありません。ただし、昔からノーフォークの名家Walpole家(初代イギリス首相Robert Walpole の家系)にゆかりがあるというので、「Walpole house treacle tart」と呼ばれたり、チャールズ・ディケンズの好物だったなんて話しもあるので、18世紀、19世紀から存在していた可能性も。でもゴールデンシロップが誕生したのは1883年のこと、、、少なくとも、ゴールデンシロップ主体の今のレシピになったのはそれ以降ということになります。まぁいずれ、このノーフォークやケンブリッジ周辺は中世の時代からすでにカスタードタルトの原型となるものやバーントクリームなどカスタード系のお菓子がよく作られてきたエリアということで、このノーフォークトリークルタルトもまた、その昔はお肉が入っていた~なんていうカスタードタルトが徐々に変化していく過程の一派生系ということなのでしょう。この流れから行くと、空焼きしたペストリーの底にオレンジやレモンピールを敷き詰め、そこにお砂糖とバターと卵を混ぜたフィリングを流して焼くという、「Duke of Cambridge pudding(デュークオブケンブリッジプディング)」という似たようなタルトもまたあるのですが、こちらはトリークル(ゴールデンシロップ)は入らないので、今日のお題、トリークルタルトから外れてしまうのでまた別の機会に。

あ~今日はもっといくつか別の面白いノーフォークのお菓子もご紹介しようと思って書き始めたのですが、人生と一緒、欲張ったり、先ばかり急ぐのは止め、また次もゆっくりじっくりノーフォークのお菓子話しを続けることにしようと思います。次回もお楽しみに♪

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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