第119話 Ecclefechan tart/ Border tart ~エクルフェカンタルト/ボーダータルト~

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okashi


<Ecclefechan tart /Border tart  エクルフェカンタルト/ボーダータルト>

Ecclefechan はスコットランド南部、Dumfries and Galloway州の小さな村の名前。ヴィクトリア時代を代表する歴史家・評論家トーマス・カーライルの生まれ故郷としても知られているこの村ですが、もうひとつ、この村の名を有名にしているものがあります。それが「Ecclefechan tart(エクルフェカンタルト)」。ふむ、、アップルタルトやチョコレートタルトなどと違い、土地名のつけられたお菓子は、それがどんなものなのかまったく想像がつきませんよね、タルトなのは分かるけど、、。

ピーカンパイのようなねっちりさとミンスパイの濃厚さを兼ね備えた味わい☆

ピーカンパイのようなねっちりさとミンスパイの濃厚さを兼ね備えた味わい☆

このタルト、ざっくり言うと、ミンスパイとピーカンパイの間のようなお菓子。シンプルなショートクラストペストリーのタルトに、たっぷりの溶かしバターとブラウンシュガー、卵がベースの濃厚ねっとりフィリング。そのため、「Ecclefechan butter tart」 と呼ばれることもあります。そしてたくさんのドライフルーツとナッツ、さらにドレンチェリーが入っています。基本的には大きなタルト型で焼かれることが多いのですが、お店などでは一人用の小さなサイズに焼くことも。赤いタータンチェックのパッケージで知られるWalkersからも箱入りのEcclefechan tart が販売されていますが、こちらはその小さなタイプ。ちょっと軽めではありますが、見つけたら試してみる価値ありです。一度大手スーパーマーケットSainsbury’s もTaste the Difference シリーズから、ミンスパイの新しいお仲間としてエクルフェカンタルトを発売したことがありましたが、そのときも小さなタルトレットタイプ。個人的には大きく焼いて切り分けるタイプのほうがフィリングがたっぷり入り、このタルトの甘さを十二分に満喫できるので嬉しいのですが(笑)。甘さの中にもどこか深みのあるこのタルト、隠し味はフィリングに加えるちょっぴりのワインビネガー。これがなかなかいいお仕事をしているように思います。

タルトレットサイズのほうが甘さは軽減されて食べやすくはあります☆両方美味しい(笑)

タルトレットサイズのほうが甘さは軽減されて食べやすくはあります☆両方美味しい(笑)

 

さてこのエクルフェカンタルト、近隣に兄弟のような親のような、親戚タルトが大勢います。それが「Border tart(ボーダータルト)」たち。このEcclefechanの村のあるDumfries and Galloway州とお隣のScottish Borders とを合わせた一体を「Borders(ボーダーズ)」と大きくくくることがあるのですが、この辺り一体に生息しているタルトです。もともとはイーストで発酵させた生地に、シトラスピールで風味をつけたカスタード、マジパン、そしてサルタナの入ったタルトという姿だったようですが、この地方の人々がより身近な材料で手軽に作れるよう改良していった結果、ボーダーズの村々、ベイカリーの数だけバリエーションが増え、今や「これがボーダータルト」とひとつの枠にはめ込むことが出来ないほどさまざまなので、「ボーダータルト」たち。とは言え先のエクルフェカンタルトの親戚ですから、ショートクラストペストリーのタルトケースに、フィリングにはたっぷりのドライフルーツやドレンチェリー、バターや卵といった材料までは共通。そこにココナッツの入ったもの、アーモンドパウダーが入り、フランジパーヌ生地のようにふっくらソフトなスポンジ状になったもの、アイシングがかけられたものなどなど、といった感じです。Bordersの海沿いの町Eyemouthの名のついたEyemouth tartもやはり親戚。

フランジパーヌ状のフィリングが入ることの多いボーダータルトはEcclefechan よりは気持ち軽めです☆

フランジパーヌ状のフィリングが入ることの多いボーダータルトはEcclefechan よりは気持ち軽めです☆

それにしても何故スコットランドのこの地方にだけこのような他のイギリスタルトとは雰囲気の異なるタルトが普及したのか、、、Laura Masonによると1707年のAct of Union (イングランドとスコットランドが合併し、連合王国グレートブリテンとするという合同法)の前後のフランスとの密接な関係による影響の結果なのだとか。その辺のことはよく分かりませんが、またひとつスコットランドに行くときの楽しみが増えたのは確か。ボーダーズ地方のタルトやスコットランド独特のお菓子探し。宝の地図ならぬ、お菓子の地図を持っていつか旅に出かけたいものです~。

 

 

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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