第52話 Bread and butter pudding ~ブレッドアンドバタープディング~

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okashi


<Bread & butter pudding ブレッド&バタープディング>

「ブレッド&バタープディング」。日本なら「パンプディング」と言ったほうが分かり易いでしょうか。イギリス人なら誰しもが懐かしい家庭の味を思い出すコンフォートフード。バターを塗った食パンを器に並べ、卵と牛乳、お砂糖を混ぜたカスタード液をひたひたに注いでオーブンで焼くだけという実にシンプルなプディング。風味付けには大抵ナツメグかバニラが使われますが、ドライフルーツやナッツを加えたり、ジャムやマーマレードを塗ったり、その時の気分次第で変幻自在。牛乳を一部生クリームに置き換えたり、食パンをブリオッシュに代えるととてもリッチな風味になりますし、カスタード液にリキュールを加えれば今度は大人味に。スコットランドテイストに「マーマレード&ウイスキー風味のブレッド&バタープディング」なんていうのも軽く苦味が利いた深い味でおススメです。B&Bpud

このプディング、ちょっとぱさついてしまった残り物のパンを再利用するために生まれたのであろうということは想像に難くありませんが、昔のブレッド&バタープディングは一体どんな姿をしていたのでしょうか。よく知られているのは17世紀にはすでに作られていたという「white-pot (ホワイトポット)」。やはりバターを塗ったパンとドライフルーツを器に詰めて、ナツメグで香りをつけたカスタード液を流して焼くという、まさにブレッド&バタープディングなのですが、特に酪農で有名なイギリス南西部Devonshireのものが有名だったため、「Devonshire white pot」 などと呼ばれることも多かったようです。

バターを塗った面を上に向けて並べれば焼き上がりが香ばしく☆

バターを塗った面を上に向けて並べれば焼き上がりが香ばしく☆

19世紀に入り、Mrs.Beeton 著の「Household Management(1861))」が出る頃にはすでにブレッド&バタープディングの名で通っているのでそちらをちょっと見てみましょう。
Cut 9 slices of bread and butter not very thick, and put them into a pie dish, with currants bettween each layer and on the top. Sweeten and flavour the milk, either by infusing a little lemon peel in it,or  by dding a few drops of essence of vanilla; well whisk the eggs, and stir these to the milk. Strain this over the bread and butter, and bake in a moderate oven for 1 hour, or rather longer.  彼女のレシピはカスタード液にバニラエッセンスとレモンの皮で風味をつけ、カランツをちらすというもの。もっとリッチにしたいときには生クリームを使って卵の分量も増やし、砂糖漬けのオレンジピールなどを使うとよいとアドヴァイスも加えています。150年以上前のレシピとは言え、今となんら変わらずとても美味しそうです。 基本的には大きな器で作ってみんなでわいわい取り分けて食べるスタイルのプディングなのですが、近頃ではレストランのデザートメニューとして、おしゃれに一人用に盛り付けて提供してくれるところも多くなりました。

焼き立てにカスタードをたっぷりかけてもこれまた美味☆

焼き立てにカスタードをたっぷりかけてもこれまた美味☆

とは言えまだまだ庶民的イメージのぬぐえないブレッド&バタープディングではありますが、実はダイアナ妃もお気に入りのデザートのひとつでした。ダイアナ妃のお抱え料理人であったDarren McGrady氏のレシピ本によると~バターを塗ったパンのうち半分はさいころ状にカットして器にしき、アマレットに一晩つけたレーズンをぱらり。残りのパンも三角にカットしてその上に並べます。卵は卵黄のみを使用。砂糖とバニラビーンズで風味をつけたクリームと牛乳でカスタード液を作り、パンの上に注いだらオーブンでしっとり湯煎焼き。最後にお砂糖を散らして表面をキャラメリゼし、スライスアーモンドと粉砂糖でデコレーション。脇に添えられるのはサマーフルーツにラズベリーソース、バニラアイスに塩キャラメルソース。。。あのエコノミープディングの代表選手がなんともお上品に、ロイヤルファミリーのテーブルにふさわしいプディングへと仕上げられています。

パネトーネにラム酒風味のチョコレートカスタードを合わせた今どきブレッド&バタープディング☆

パネトーネにラム酒風味のチョコレートカスタードを合わせた今どきブレッド&バタープディング☆

余りものの乾いてしまったパンを使いきれる上に、下ごしらえもあっという間。メインの料理を焼いているオーブンの下段にでも滑り込ませておけば光熱費も節約できて、お料理と同時にプディングも出来てしまうという忙しい主婦の強い味方のブレッドアンドバタープディング。イギリス人に聞く好きなプディングランキングの上位を長いこと保ち続けるのも分かりますね。パンに卵と牛乳という、朝食のような主原料を考えると日本人にとっては食後のデザートとしては少々ボリューム多めなのは否めないので、イギリス生まれにしては相当甘みも控えめなことですし、休日のブランチにするのはいかがでしょう。パンケーキとフレンチトーストブームの次にはブレッド&バタープディングブームが来たらいいのになぁ~などとイギリスびいきの私は思うのでした。

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About Author

宮城県仙台市出身☆ 2008~2012年イギリスにてイギリス文化&イギリス菓子を大吸収するかたわら、日本で主催していたお菓子教室をつづけていたところ、あぶそる~とロンドンの編集長に出会う。 現在の居は巡りめぐって宇都宮。イギリス菓子教室 'Galettes and Biscuits' にてイギリス菓子の美味しさ&魅力を静かに発信中☆ 2018年2月 美味しいイギリス菓子をぎゅ~っと詰め込んだレシピ本「BRITISH HOME BAKING おうちでつくるイギリス菓子」、2018年 12月 「イギリスお菓子百科」。2020年12月「ジンジャーブレッド 英国伝統のレシピとヒストリー」、2021年9月「British Savoury Baking 古くて新しいイギリスのセイボリーベイキング」 を出版。インスタグラム@galettes_and_biscuits

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