第26話 フォーモーとせんたくし症候群②

0

minimalist


Chapter 3.8
フォーモーとせんたくし症候群②

前回は「アフルエンザ」と、ネット依存症&取り残され恐怖症が合体した「FOMO(フォーモー)」という現象に触れましたが、今回は豊かさから生まれたもうひとつのビョーキ「せんたくし症候群(選択肢症候群)」について取り上げてみたいと思います。

これは私が勝手に名付けた病名なのですが、その症状とは…「とっても便利で、着るもの、食べるもの、ライフスタイルも何でも選び放題。今日は何を着ようかな、何を食べようかな、何を買おうかなと楽しく1日が過ぎていくバラエティに富んだ生活」。

…え?! どこがいけないの? そんな生活、夢じゃない?

確かに選ぶ自由があるというのはとても大切なこと。
でも選択肢が多すぎて圧倒されてしまい、何を選んだらいいか分からなくなったり、大切なことを見過ごしてしまうというのはちょっと危険な状態ではないかと思います。もちろん本人が幸せならそれでいいんですが。

実は、人間が一定期間にできる選択や決断の数には限界があるのだそうです。

米スタンフォードやコロンビア大学をはじめとした機関で様々な研究が行われているのですが、大量の選択肢を与えられたり、常に選択をし続けていると、多くの人の判断力が低下したり、無難なチョイスしかしなくなったり、選択疲れのような状態に陥ってまともな思考や決断ができなくなる傾向があるとのこと。

もうすこし突っ込むと「自分は何がしたいのか」「どのように生きたいか」というテーマについて正面から取り組んで決断したりアクションを起こすよりも、「どれを食べようか」「コーディネートAとB、どちらがいいか」「就職先AとBとならどっちが得か」「どれなら勝てるか」「どっちが喜ばれるか」と自分に与えられた選択肢をただ選んでいる方が楽チンなのでそうしてしまう。

そして何かを選んだことで気が済んでしまう。重大な決断をした気になる。数をこなしたことで何かをやり遂げた気になる。そして毎日が過ぎていく。これが「せんたくし症候群」。

楽しかったらそれでいいじゃない、というのもごもっともだけど「どれでも好きなの選んでいいよ♪」と目の前に次々と現れる「自由のようなもの」につねに惑わされてるといえなくもない。

来日もしているのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、米ニューヨーク・コロンビア大学ビジネススクール教授で『選択の科学』の著者、シーナ・アイエンガー女史は、多すぎる選択肢をカットすることの重要性を説いています。

コラム23話の『その「2割」を見つける』にも関連してきますが、自分に関わってくる選択肢はせいぜい全体の20%程度。

たとえば100足のブーツを目の前に並べられて「あなたが欲しいブーツを選んでください」と言われたら、その中から自分の本当の選択肢に該当するのは「サイズ」「色」「デザイン」「品質」などが自分の求める条件と一致しているものだけ。残りをまず切り捨てて、ようやく選択がしやすくなります。

その前に「そもそも自分はブーツが欲しいのか」ということも検討する必要がありますね!「ブーツよりビーサンが欲しいんだよね」とか「靴はいらないや」と気がつくこともあります。

また仕事場で山のようなメールの対応、決断に次ぐ決断に追われている人も多いと思います。

ここでもすべてのメールに返信する必要があるのか、製品のバラエティをこんなに多くする必要があるのか、これは取り組むに値するプロジェクトかといった事項を検討することが、無駄を減らし業績を上げたり、個人の時間を大切にすることにつながります。

DSC_8585b

今回はコラムだけでなく写真もアブストラクトな感じで♪

ミニマリストの逸話としてよく取り上げられる話ですが、アインシュタインやスティーブ・ジョブズ、オバマ元米大統領、マーク・ザッカーバーグといった有名なリーダー、偉人たちが毎日同じような服を着ている理由が「着る服を選ぶというような小さな決断でも、繰り返し行っているとエネルギーを消費してしまう。他に決断すること、やることが山のようにある」と、ほぼ共通しているのも興味深いところ。

以前コラムに登場したコートニー・カーヴァーの「プロジェクト333」も同様のアイデアに基づいています。

「ファッションや身だしなみに気を使うな」「日々の楽しみなんてどうでもいい」「世界のリーダーや、成功者を目指せ」という話をしているのではないですよ。

余計なことにあまり惑わされず、自分の大切なことにエネルギー注ぐというのは、よりよく生きるための基本姿勢。
だって、自分にとって大切なことや好きなことをしないってことは、自分を殺して暮らしているということ。つまり「自殺」ということですもの…!

プロスポーツ選手やオリンピック選手は、自分の能力を最大限に発揮するために朝起きてから夜寝るまで、入念なプログラムに沿って生活しています。朝起きて、何を食べて何を飲んでどのようにトレーニングするか、それらをどのような順番でやるか。無駄を省いた最高のルーティン(習慣)を自分に課す。それ以外はおまけや飾りでしかないことを知っています。

つまり、ギター好きなら誰かに言われなくてもギターを練習したりバンドをやったりライブに足を運んだりしているし、ケーキが好きな人なら仕事や学校の合間をぬってケーキを食べ歩いたり、お店を出すプランを練ったりしている。子育てを大切にしている人なら、話す時はスマホはいったん置いて子どもときちんと向き合おうとする。そういうことなんです。

これまでのコラムでも何度か触れましたが、ミニマリズムって持ち物の数をやみくもに減らすことじゃない。自分にとって不必要な要素を取り除いて、大切なことをするためのスペース(=時間・空間・精神)を自分に作ってあげる。これこそが本当の意味でのミニマリズムだという気がします。

Share.

About Author

アバター画像

写真家&ライター。東京で広告制作・編集と撮影の仕事を経て2003年渡英。フリーランスで活動中のアーティスト。ロンドンをベースにアーティストや作家をモデルにした絵画的なテイストを持つポートレート制作などを行う。英国をベースとしたエキシビションを開催。日常系ミニマリズム研究家。「あぶそる〜とロンドン」編集長、江國まゆ氏と共に2018年に『ロンドンでしたい100のこと(自由国民社)』(執筆&撮影)、そして2020年には『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』を出版。

ウェブサイト

Leave A Reply

CAPTCHA